曜変天目茶碗

最近「中国と茶碗と日本と」というちょっと変な題名の本に出会いました。
著者は中国人の彭丹(ほうたん)という女性です。
日中比較文化比較文学の研究者で、研究の傍ら茶の湯能楽、禅など日本文化に親しんでいるそうです。
この本の作者紹介の欄にも着物姿の写真が載っていました。


先月静嘉堂文庫美術館曜変天目を見てきたばかりです。
3月13日のブログに書いたとおり、曜変天目は世界に3点しかなく、しかもいずれも日本にあります。
なぜ中国にひとつも残っていないのか?
答えがこの本にありました。


曜変天目はもとは窯変天目、つまり窯の中で予測のできない異変が起こった結果出来たものなのです。
日本人は「窯の中で異変がおこったおかげでこんなすばらしい茶碗が出来た」と考えますね。
ところが中国人は違うというのです。
中国人は常に天意というものを意識しています。
日本人が八百万の神を信仰するような軽い気持ちではなく、天意というもは絶対的な存在なのです。
皇帝は天の教えに従い国を治める。皇帝の治世は天によって監視される。
皇帝が不徳のとき、天は皇帝に警告あるいは懲罰を与えます。
懲罰の方法はというと、天象に異変を生じさせるのです。
さらに天上の日月星辰だけでなく、地上の陰陽五行にも異変を生じさせると言われています。


陶磁器を造るためには、土に水を加えて捏ね火中に置いて焼きます。
五行のうちの土・水・火の働きによって初めて出来あがるものです。
そのほか陰陽の調和も必要で云々とあります。(省)


つまり製陶は、中国においては陰陽五行の調和を象徴し神聖な意味を持っているのです。
この神聖な活動に、窯変という予測のできない異変が起こると、当然それは天意の現れであり、天から与えられた警告だとみなされました。
そこで窯変が現れるとすぐ毀してしまったのです。
それが窯変天目が中国にひとつも残っていない理由だと著者は述べています。


ここで疑問になるのが、それがどうして海を渡って日本に渡来したのかということです。
いつの世にも、ある物事に目をつけそれを活用して金儲けをしようとする人はいるものです。
海外貿易商人が介在していたようで、上手い手口で陶工をだまし窯変天目を手に入れたのでしょう。


最後に窯変を曜変としたのは、はっきりしませんが日本人ではないかと著者は推測しています。
華麗な美を日月星辰の輝きに喩え、光が高く目立ってかがやくという意味がある"曜"という文字を使って曜変としたのではないかということです。