2015年9月21日 夕ざりの茶事

毎年初秋の風が吹く頃になると、来年の初釜をどこでやろうかなと思い始めます。
それが今年は残暑が短く涼しくなるのが早くて、8月の旧盆の頃は秋を感じ始めました。
普段は稽古日が異なっている人達が、座を一つにして膳を共にし、親しく言葉を交わすことができるのはこの日ぐらいです。
これまでいろいろな所で行って来ましたが、それぞれ一長一短があり決めきれません。
そういえば二十数年前に私の師が毎年のように茶事を催してくれた所があったのを思い出しました。
鴨居の祥古さんです。
今はどうなっているのかしら。あの当時のままなのかしら。それとも代がわりした頃かしら。
実は祥古さんで私が最後に参加した茶事は夜咄でした。その帰りに師が軽い交通事故で怪我をなさいました。怪我が治ってからも、あまりお身体が丈夫でなかったため不調続きになってしまわれました。それ以来祥古さんとはご無沙汰になっていたのです。
さて、祥古さんをネットで検索してみましたが電話番号はでてくるのですが、その他の情報は皆無に等しいのです。
電話をしてみると、「以前と変わりなくやっておりますよ」とのこと。
初釜の様子をお聞きしてから、
「仲間と相談してからお願いする時は改めてお電話します」
と申し上げると、
「初釜の前にどうぞ夕ざりにいらっしゃいませ」
とすすめられました。
そういえば稽古ではいつも正午の茶事ばかりだったことを思い出し、風情のある夕ざりも皆さんに紹介しようと、連休の1日を設定しました。


夕ざりは初座が昼で、後座が夜。
中立の頃暗くなるのが理想です。

9月21日の日の入りは17時41分。
日の入りから30分位で暗くなるので、逆算して待合を16時にしました。


私と亭主の宗瞳さんは14時半には祥古さんに入り準備を始めましたが、日が陰っていること、部屋の南側に縁側があること、障子が葦簀だったことで部屋の中が暗いのに戸惑いました。
天井にはほんの小さな電灯がすでに灯っていました。
昔の日本家屋の明るさはこんなものだったのでしょう。
私がいかに日常生活を明るい中で過ごしているかを思い知らされました。


予定通り16時、待合に皆さんが集まり夕ざりの茶事が始まりました。
迎付⇒席入⇒挨拶⇒懐石⇒初炭⇒菓子
とすすんできました。

亭主が迎え付けを終えて躙口に戻りました



次客が蹲踞を使っています


硝子の菓子器の影がとても綺麗でした(このときはまだ灯火ではなく小さな電灯でしたが)


予定ではまだ明るさの残る18時前には中立するはずでしたが、懐石の預鉢がなんと4種も供されたのです。
皆さんおいしくいただいたのですが、30分近く時間オーバーになってしまいました。
したがって中立するときから既に手燭が必要になり、少し計算がくるいました。
露地のそこここに置かれた行燈がとても美しく、でも足元を照らすには手燭が欠かせません。
皆慎重に歩を進めました。


腰掛待合で連客一同談笑しているうちに、喚鐘が聞こえてきました。
皆 腰掛けから降りて蹲踞って耳を澄ませました。
一つ、二つ、三つ、四つ、やや間をおいたところで水色のお着物の亭主の姿が…
手燭をもって迎え付けです。
正客も手燭を持ち、枝折戸まで進みます。
亭主と正客の手燭の交換。
ここがこの茶事の最大の素敵な場面ですね。
亭主は正客から受け取った手燭を持って内露地を戻って行かれました。
正客は亭主から受け取った手燭を持ち、連客とともに雁行し蹲踞まで進んで手燭を手燭石の上に置きました。

上手く撮れていませんが手燭を交換しているところ


“雁行”聞き慣れない言葉かもしれませんが、連客がバラバラに進むのではなく、正客が持つ手燭を頼りに連客一同露地を進むこと。
露地は飛び石になっているため縦一列横一列とはならないわけです。
雁が斜め一列になって空を渡っている姿をこう表現するのですが、実は私も写真でしか見たことがありません。

御座の席に入ると台子にお月見の荘り。

これはまだ明るいうちに撮った写真なのでまだ蝋燭に火が灯っていません

後座の床は軸に変わっています。(夕ざりは初座が花、後座が掛物になります
各自手燭をかざして武蔵野の風景が描かれている画とそれを賛した和歌を詠みました。
いよいよ濃茶点前です。
灯火の元でのお点前はとても厳かに感じられました。
廬山人造 銘「福寿」に練られた6人分の濃茶は、詰客の私まで十分な量と美味しさで、御亭主の見事なお点前でした。

濃茶点前

廬山人造 銘「福寿」

夕ざりの茶事はつづき薄茶が常ですが、もし炭が落ちてきたらと心配していましたが、炭の勢いは十分で湯加減もよく、様々な茶碗で薄茶を点てていただき目をも舌をも楽しませていただきました。

・・・・・後日談・・・・・
夕ざりの茶事を9月の5連休の3日目に設定したため、この連休を利用して帰省する人、旅行する人には参加したくてもできなかった人がたくさんいました。
今後行事をやる時は長い連休は避けることにします。
思いが至らず今回はどうぞお許し下さい。